インサイトレポート

対 談

2023.07.21

【1|臨床医 × 病理医の連携のきっかけから、他科連携まで 】がんゲノム時代の臨床現場 ~NGSの進展による臨床医と病理医の関係性の変化~|里内美弥子先生 × 佐久間淑子先生 対談インタビュー

里内 美弥子先生

1989年神戸大学医学部卒業後、2005年より兵庫県立がんセンターにて勤務し、2019年からは同センター副院長を務められております。
臨床では数多くの呼吸器腫瘍の患者さんを診療されながら日本肺癌学会では要職を務め、更にはASCO、IASLC、ESMOといった国際学会でもご活躍されていらっしゃいます。

佐久間 淑子先生

1993年神戸大学医学部卒業後、神戸百年記念病院などで内科医として勤務されております。2002年より、神戸大学医学部付属病院病理部、2004年より兵庫県立がんセンター病理診断科に勤務され、現在は病理診断科部長を務められております。

施設における臨床医と病理医の連携のきっかけ

——臨床の先生方と病理の先生方の連携というところを中心にお伺いできればと思います。先生方の施設で臨床医と病理医の先生方が連携を行うようになったきっかけ、経緯をお教えください。

里内先生:1984年、前身の病院(兵庫県立病院がんセンター)が今の敷地に移転する際に、呼吸器外科と放射線科がすでに連携を進めていて、そこに呼吸器内科が加わる形で一緒にやってきました。そのタイミングで病理の先生も一緒にカンファレンスを立ち上げたと聞いています。その週に気管支鏡生検を行ったり、手術をしたりして病理結果が出た症例を、画像や病理検体を見ながらカンファレンスをするのですが、最初にカンファレンスに参加した時は非常に怖かったです。内視鏡の写真や気管支鏡生検で取った検体を見せられて、「この下手なやつ、誰や」と言われて。

佐久間先生:なかなか激しいカンファレンスだったみたいですね。

里内先生:画像所見から始まり、その後に気管支鏡写真が出て、病理の結果が出て、それぞれの意見を出し合って、診断・治療をどうしましょうということを必ず話し合っていました。術後も同様で、それぞれの意見を統合して治療方針を決めていました。病理診断を言われて決まりとかそんな簡単なものではないんです。

佐久間先生:病理医のほうもカンファレンスに参加することで、臨床医がどの程度悪性を疑っているのかが分かります。組織だけでは、診断に迷うこともありますし、誤った判断をしてしまうこともあります。そういう時には、臨床所見や、画像所見を教えてもらうことで正しい診断に行き着くこともあります。

里内先生:そうそう。だから、ゲノム医療が進展してきたから連携が急に始まったのではなくて、もともと、診断や治療方針を決めるために病理医と臨床医が連携していて、そこにゲノムが加わったという感じですね。

ゲノム医療の進展と病理検査の変化

——ゲノム医療が進展したことで、臨床医と病理医の連携の形が変わってきたことはありますか。

佐久間先生:ゲノム医療の始まりは、EGFRですね。

里内先生:そうですね。
最初は遺伝子について我々もあまりよく分かっていませんでした。
EGFR-TKIは最初、遺伝子変異が分からない中で使用していたのですが、それをまとめるよう言われて、愛知県がんセンターにうちの組織を全部送り、遺伝子変異を見てもらったことがありました。その頃、EGFRの遺伝子変異は組織のほうが出やすいと皆が思っていて、術後症例のみで臨床試験を行なったりしていましたが、当院のEGFR遺伝子変異を全部見てもらったところ、術後の検体のほうが遺伝子変異が出ていないかもしれない、ある時期だけ遺伝子変異が見つかっていないということが分かってきました。肺の検体の切り出しをそれほど頻繁に行っていない時期があって、その時期だけ全然EGFRの変異が見つからなかったんです。ホルマリンの固定時間が長いと変異が出ないんですよ。でも、あの頃はそんなことも分かっていませんでした。

佐久間先生:以前はプレアナリシスなどという概念はほとんどなかったので、組織のホルマリン濃度や固定時間について特に決まった方法はなくて、組織検体を多数扱う大きな病院でも、手術で採取された組織を1週間くらいホルマリンに浸漬しておくこともあったようです。病理というのは主に形態診断でしたから。

里内先生:そのようなフィードバックをしながらEGFRから始まり、次にALKが出てきましたね。ALKの治験が始まったのが2010年ごろだったか、院内でスクリーニングをしてほしくて免疫染色をしてもらうようになりました。FISHもやってもらって、免疫染色との不一致なんかも経験したりしました。そのころはEGFRは外注していたのですが、2016年からは院内で検査するようになって、検体の取り方など色々と議論が出始めましたよね 。

佐久間先生:ゲノム医療が進展したことで、臨床医と病理医の連携の形が特に大きく変わったということはなかったように思います。ただ、EGFRの遺伝子変異が出た2007年くらいから 臨床医が病理診断に求める内容が少し変わってきました。そうすると、それは病理医だけでは、全てカバーすることができなくて、病理に携わる技師、遺伝子を扱う研究部など、より多くの方たちとの連携が必要になりました。

里内先生:そういった部門のスタッフと、どういうふうにしたら検査がスムーズに回るだろうかということを、新しい検査が出る度にいろいろと皆で話し合いを積み重ねていきました。

佐久間先生:ブレイクスルーのきっかけは、やはり、内科医(臨床医)だと思います。内科の先生が、院内でこういう検査がやりたいと思われれば、病理は、どうすれば、検査ができるか、具体的に考えていきます。臨床医が必要としない検査は基本的にはできませんから。

里内先生:でも、やはり病理医や技師さんが応えてくれないと院内の検査は難しいです。いくら私たち内科医から病理医や技師さんに、「院内で検査したほうが患者さんにこんなすごい治療が早く確実に届くんだよ」と伝えたとしても、実際に検査してくれるかどうかは病理医や技師さんに委ねられてしまいます。お互いの熱意と信頼関係が大事ですよね。

佐久間先生:院内での検査には、TATが短いとか、検体の状態に合わせた検査が可能で、検査の成功率が高い、失敗した場合フィードバックが可能などの、多くの利点がありますが、一方で、高額の検査機器や試薬をそろえる必要があり、また、多くのマンパワーを要するなどの問題があります。いろいろ制約があるなかで、一番良い結果を出すために、臨床の先生方と何とかお互いの妥協点を見つけていかなくてはなりません。
*TAT(Turn Around Time; 検査依頼から結果返却までの期間)

里内先生:Pembrolizumabが出た時には、コンパニオン診断薬になるので22C3の免疫染色をやりたいという話になって、院内で検査してほしいと申し出たのですが、それにはまず自動染色装置が必要だということがバリアになりましたよね。

佐久間先生:そうなんです。 Link 48(ダコ Autostainer Link 48)ですね。
PD-L1(22C3)はPembrolizumabのコンパニオン診断ですが、コンパニオン診断とするためには、決められた抗体を決められた自動染色装置を使用して染色しないといけません。当時、当院には、その染色装置がありませんでした。

里内先生:PD-L1の検査を院内で行うために高額な機器を入れるかどうか・・・PD-L1の検査のためだけにね。

佐久間先生:コンパニオン診断を院内で行っていくのは、費用の面ではなかなか大変です。

里内先生:そうですね。だから我々が検査したいとお願いする前にも、高額な機械を買ってもらったり、それを置くスペースを確保してもらったりすることが絶対に必要になってきます。

佐久間先生:高額機器を購入するために原価償却の計算が必要ですし、検査に使用する試薬も高額で、消費期限がありますので、決められた期限内に消費できなければ、確実に赤字になりますから、まず、月に何件くらいの検査が行われるか臨床の先生に見積もりを出してもらいます。さらに、試薬の都合上、一度に3件以上の処理を行うことが望ましいので、TATの希望をお聞きして、現在は、曜日を決めて週に1~2回のペースで検査を行っています。もちろん、院内検査ですので、緊急の場合は、その日のうちに結果を出すことは可能です。こんな風に、お互いに、妥協点を探りながら、検査のやり方を決めていきます。

里内先生:抗体と言えば、ALKも免疫染色のコンパニオン診断が承認されたので2018年9月からそれまで使用していた研究用試薬抗体を体外診断薬のD5F3に変更してもらいました。でも、その後、2022年にAmoy(AmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネル)を院内でやることになって、ALK単独のコンパニオンは不要になったので、D5F3の院内の免疫染色はやめましたね。でも免疫染色がいらないかというと、ALKはもしかしたら偽陰性が出るかもって問題があります。

佐久間先生:ALKの偽陰性は患者さんにとって大きな不利益になりますね。

里内先生:そうですね。ALKは診断できると非常に予後が良く、それにも関わらずAmoyで偽陰性になってしまうと患者さんに不利益なので、免染染色でバックアップしてほしいという要望を出しました。

佐久間先生:それで、2022年からは、もともと使用していた研究用試薬を使って、ALKの免疫染色をすることにしました。研究用でも(ALKの)体外診断薬と同じ結果を得ることはできるので、バックアップには十分使えます。体外診断薬の価格は研究用試薬の7倍くらいしますから、コンパニオン診断の保険点数がつかなければ、これは病院の持ち出しになってしまいます。
抗体さえあればコンパニオン診断ができるんだと考えている臨床の先生もいらっしゃいますが、場合によっては免疫染色装置の購入が必要だとか、抗体にしても一度に何件か染色をしないと赤字になるとか言ったことを、一つ一つクリアしていかないと院内で検査はできません。

里内先生:どうすればリーズナブルにスクリーニング体制が構築できるかは一つずつ病理部門と相談していくしかないんですよね。

佐久間先生:普段から、密なコミュニケーションが取れているから、できることもたくさんあります。

里内先生:ALKがすごく大事だとか、イレギュラーだけど急いで検査をしてほしいという場合など色々ありますけど、病理医が頑張って検査をしてくれたから患者さんに稀なドライバー遺伝子が見つかりましたよとか、その後の治療で上手くいきましたという話を全部フィードバックするようにしています。

佐久間先生:臨床の先生から、患者様が適切な治療で良くなったというようなことを聞くと病理医も、技師も仕事のし甲斐を感じるというか、とても嬉しく思いますね。

里内先生:ALKは治験でも驚くほどの効果だったので、若い患者さんがこんな悪い状態だったのが、こんなに改善したということは 以前から全部、病理医や技師さんにフィードバックしていました。なので、病理も遺伝子変異検査が非常に大事ということを分かって下さっています。臨床医がそういうフィードバックもせずに、「これやっといて」と言っても、病理医には響かないと思います。そういう相互理解が非常に大事だと思うんですよね。

臨床医と病理医の相互理解、院内での普及

——臨床医と病理医の相互理解について、例えば、若手の先生方への指導はどうされているのでしょうか。教育面についてもお伺いしたいです。

里内先生:今のところ、臨床医と病理医の相互理解という点においては、当院では非常にうまく機能しているといえると思います。お互いに、検査を成功させるためには検体の質と量の担保が必要不可欠であるという共通の認識をもってカンファレンスを行っていますから。

佐久間先生:そのうち、細胞診検体や血液検体でもゲノム検査が可能になってくるかもしれませんが、今のところ、ゲノム検査で良い結果を得るためには、組織検体を使うのが一番ですから。ゲノム検査というのは組織選びから始まっています。

里内先生:ゲノム検査が始まった頃、講演会で一緒になった病理医から、検体によって結果が全然違う、ダメな検体はたくさんあるんですと言われました。特に印象に残っているのが、臨床医はどんな検体が取れているのかということを知らない、自分たちはどのくらいの大きさの検体が取れているのかも知らない、けれどそういった情報は病理医が一番知っているということです。色々な施設からセカンドオピニオンや紹介で組織検体が送られてきますが、来たら「なんだ、この検体は!? こんなんじゃ無理だよ」というものも残念ながらないわけではありません。Amoyでは陰性と感度以下の区別がつかないですから、その検体でAmoyDxに出しても陰性でしたという結果しか返ってこなくても実際には偽陰性でドライバーが隠れているかもしれない。紹介元の先生は検体を取って、組織の確認をせずに、マルチ検査を出せばOKとそのまま検査に出しているんだと思います。

佐久間先生:例えば10個以上の気管支生検組織があっても、ほとんどが壊死だったり、腫瘍がごく少数しか含まれていなかったりすることもあります。臨床医からすれば、10個以上も組織採取したのに、何でゲノム検査ができないんだ、何とかならないのか、思っているのかもしれませんが、当院のカンファレンスでは、病理医が、この検体ではゲノム検査はできない、と伝えれば、その検体についての議論はおしまいで、(この検体は使えないから)、じゃあ、組織を取る次の手は?という議論にさっさと移っていきます。この切り替えは早いですよね。

里内先生:検体がないということで終わらせないですよね。CT下生検でいきますか、オペでも良いですかと、外科にオペの日程を確認して、許容範囲ならそれでは外科的生検でって形で決まっていきますね。

佐久間先生:検体なしのまま治療していきましょうということは、ほぼ、ないですよね。

里内先生:そう、BSC(Best Supportive Care)でない限りは、何とかして組織を取りに行こうとします。

佐久間先生:組織が取れていません、と臨床の先生に言うのは、実は病理医にとっても非常にストレスなんですが、カンファレンスで、組織を提示しながら説明すると、臨床医も理解してくれます。本当に取れていないのか、とか、この標本で何とかならないのか、というような議論になったことは一回もありません。ありがたいことに。

里内先生:例えば、播種があるようなステージⅣの患者さんでも、この人は、気管支鏡や針生検では組織が取りにくそうだなと思った時には、手術(外科的生検)を頼むことが増えました。ゲノム検査が可能なしっかりとした組織検体が必要なので、そこだけ取ってもらっています。もちろん、本音を言えば、皆、内視鏡検査をやりたいですし、うちの若い先生たちもそうだと思います。だけど、患者さんたちは私たちが外科で取った方が良いと伝えると、たいてい同意してくれますね。手術って大変、と思うかもしれないし、全身麻酔なのでリスクはゼロとは言えませんけど、検査に必要な組織を確実に採取できますから。「気管支鏡は大変だよ」と、他院でインフォームドコンセントを受けてきたような患者さんは、気管支鏡検査をすごく怖がっていますね。「手術で切ってもらって細胞を取りましょうか」というと、「カメラをしなくて良いんですか?」と喜ぶ患者さんもいるくらいです。

佐久間先生:肺がんの診断だけなら細胞が数個あればできることがあります。PD-L1の診断は細胞が100個以上ないとできません。でもゲノム検査をするためには、もっとたくさんの細胞が必要になります。だから、ある程度の大きさの検体が必要なんです。

里内先生:臨床医と病理医の相互理解ということについては、まあまあできていると思います。若手の先生たちも、カンファレンスに参加して、実際に経験を積むことで、その辺は、わかっていくと期待する部分もありますし、時には、私が、「これはダメだよ」って注意することもあります。

佐久間先生:今のところ、臨床医と病理医の関係は非常にうまくいっていると思いますが、部分的には、個人に依存しているようなところもありますよね。

里内先生:病理の先生も変わっていきますしね。私もずっといるわけではないので、人が変わっても本当に上手い関係性を築けるかというのは今後の課題かもしれませんね。

病理検査における他科連携

——これだけ数多くのドライバーミューテーションが増えてくると、外科との連携、病理との連携、他科連携は確実に必要になってきますか。

里内先生:絶対にそうですね。例えば、EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法)を消化器内科にやってもらうこともあります。
腫瘍が縦隔側の末梢のほうにあったり、縦隔の大動脈周囲のリンパ節病変は気管支鏡やCT下生検では取れないですよね。でも、大動脈付近、大動脈窓の#5、傍大動脈#6番リンパ節というのは食道から刺せるんです。縦隔側の病変も食道からアプローチできることがあります。そういうのを消化器内科にお願いしています。そのような意味でも、院内連携は大事です。
やはり検体が全てです。最初に遺伝子検査までの診断が付いていないと、どんなに治療の知識があっても最新の治療に行き着かないです。

佐久間先生:最近、依頼書に、組織診断のためではなく、「ゲノム検査のために検体を取りました」と書かれることがありますが、そんな時には、病理医も何とか十分な腫瘍組織があってくれと祈るような気持ちで組織を鏡検しています。肺がん治療後の再生検では、しばしば線維化や壊死で腫瘍細胞があまりたくさん取れていないことも多く、検体を選ぶのにとても苦労することがあります。
また、治療可能な遺伝子変異があることが分かっていても、検査の方法によっては使用したい薬剤が使えないので、同じ検体を使って、何回か別の遺伝子検査に提出しなければならないこともあり、組織は本当に節約しながら大切に使っています。

里内先生:私も、若くてネバースモーカーで様々な治療を受けてきていて、LC-SCRUMやGuardant(Guardant360 CDx がん遺伝子パネル)など、何をやっても(遺伝子変異が)出ないって人がいました。その人になんとかドライバー遺伝子を見つけようと、リバイオプシーでFoundationOne(FoundationOne CDx)をやりたいということになったのですが、播種とか肺外転移があれば良かったのですが、原発巣しか大きくなっておらず、そこから必死になって気管支鏡検査をしたことがあります。全然(腫瘍組織が)取れなくて、10個取ったのですが、6個目まで何もなくて、7個目で少量、8~10個でやっとがん細胞が取れました。

佐久間先生:FoundationOneでは、25㎟の面積の組織を10枚提出しないといけないことになっているのですが、この方の場合、1個の生検組織の面積が大体2m㎡~3m㎡で、使える組織を全部足しても面積は5m㎡に足りないくらいでしたが、そこから技師が70~80枚切り出してくれました。

里内先生:そうしたらEGFRのexon20が出て、治験に参加することができ、その後に「タグリッソ」が効いたっていう人がいました。我々も必死でやっていますが、技師さんも原発巣が取りにくかったり、再生検で取りにくかったりすることをよく知っているので、がん細胞を確保するために、薄切も含めてかなり面倒な作業を文句言わずにしてくれていますよね。

佐久間先生:困難な状況ほど燃えるというか、ちょっと無理かもしれないと思っていても少し工夫して、ちゃんとゲノム検査の結果が返ってきたりすると、結構、快感になります。次もこうしたらできるんだ、という経験値にもなりますし、それに、実際、医療に貢献できているという感覚は病理医にとっても技師にとってもとても貴重です。

里内先生:その人は治験に入れて、次治療で「タグリッソ」も使えたということを、もちろん病理にはフィードバックしましたよ。

——そのような連携は関係者間で患者さんが救われる未来を共有しないと難しいものではないかとお話を聞いて思ったのですが、その部分はいかがでしょうか。

里内先生:そうですね、実際、そこまで検査しても治療に結び付くかどうかは分からないです。でも、患者さんにとって、チャンスになるかもしれないし、患者背景からこの人には何か遺伝子変異があるのではないかないとなれば、なんとかしてそれを見つけてあげたいという思いは、皆同じだと思います。

佐久間先生:確かに、何とか患者さんに有効な治療を見つけたい、というのが、連携をしていくうえでの大きなモチベーションになっているのは間違いないと思います。FoundationOne Liquid CDxは、患者さんの血液を使って検査をするので、検体の提出はまあ簡単ですし、場合によっては有用な検査ですが、がんがあるにもかかわらず、遺伝子異常が何も出ないことがありますね。つまり、血中に十分ながん細胞がなくて、検査自体ができなかったわけです。患者さんに「あなたの遺伝子異常に対しては今のところ治療方法がありません」と告げるのは、確かに、大変つらいことですが、「検査はしましたが、遺伝子異常があるか、ないかわかりませんでした」というよりは、まだましかな、と思っています。

里内先生:FoundationOne Liquidは何人かやむをえず検査している人がいますが、やはり、Liquidで外れている人がいますね。後日の組織でのCGPでLiquidでは見つからなかった治療に結びつくドライバー遺伝子が見つかることがしばしばあります。ですから、今のところは組織があれば、組織を使ったゲノム検査が推奨されています。

佐久間先生:他のがん種ですけれど、再発したときに細胞診で診断をつけて、すぐ化学療法を始められたのですが、その後、また再発をして、その時には組織採取がなかなか難しいので、FoundationOne Liquidを提出されました。結果は(がんがあるにもかかわらず)陰性でした。主治医の先生は、一回目の再発時に組織を採取しておけばよかった、と、大変後悔しておられましたね。再発っていうと細胞診だけでがんの診断をつけて、すぐ化学療法が入ってしまうこともありますが、がんの場合、将来的にゲノム検査が必要になってくる可能性もあるわけですから、組織は、取れるときにゲノム検査に提供できるほどの十分なものを採取して、適切に処理しておく必要があります。患者さんが救われる未来の共有ということでは、このようなことも啓蒙していく必要があるかもしれませんね。

里内先生:検査については、外注検査にするか、院内で検査をするか、ということも、大きな問題なのですが、院内検査を行っていただくと、検体の状況など色々把握できうますし、早くに目星がつという利点があります。
当初KRAS、MET, HER2を院内のPCRで行い、ROS1はIHC、というようにシングルプレックス検査をいくつか行うことで院内スクリーニングをしてました。しかし、RET融合遺伝子に関しては、PCRも免疫染色もなく、シングルプレックス検査では網羅できなくなりました。そこで、マルチプレックスを行う必要性に迫られ、Amoyを院内導入したのです。

佐久間先生:肺がんの治療は、本当にすごいスピードで変化していますね。